卒業
「趣味って何?」
そう聞かれた中学生時代、「ゲーム」「ネット」「漫画」などとクソ適当な回答をよくしていた。
「お前オタクかよ~」と茶化しながら仲良くしてくれる友人に対し、「何なら漫画貸すよ」と好きな作品を勧める、まさに絵に描いたようなオタク
中学生という成長期に頻発する症状として「厨二病」が挙げられるが、例に漏れず自分も該当していた。
夜な夜なノートにありもしない妄想を書き、それを読んでは「面白かったな」と感じる、まさに自己満足の代物。それは、自分だけで読めばただの「思い出」として終わるが、表に出した途端「黒歴史」に豹変する。
ネットという海を泳ぎ出したのもこのぐらいの時期だ。ネットリテラシーの「ネ」の字もないクソガキが、いきなりサバイバルの地に足を踏み入れて大丈夫かと思うが、結果的に良かったと思う。しかし、当然だが傷跡はかなり大きい上に多い。
ネットでは本名ではなくニックネームを自分で付け、それを名乗ることが出来る。その上、相手もそう呼んでくれる。まさに第二の名前と言えよう。
「どうせなら人と被らないカッコいい名前いい!」
そう考えた少年は、いつも書いていた秘蔵のノートを開き「キャラの名前一覧」を見る。
名前のインパクト
響き
書きやすさ
被りにくさ
覚えやすさ
「『玲威夜』かなーやっぱw」
傷口は大きい。しかも「インパクト」と「被りにくさ」しかクリアしていない。せめてひらがなにしてくれ(25歳・男性)
趣味から「オタク」というレッテルを得た少年は満足していた。何一つ嘘はついていないし、実際部屋には胸がデカい二次元の女の子のポスターがたくさん貼られていた。幼少期から好きだった忍者漫画が圧倒的に占めていた本棚も、気付けば「登場人物の8割は美少女」である漫画や小説で埋め尽くされていった。
ある日、友人を家に招いた。
小学生の頃はよく友人を家に招いてはゲームで遊んだが、中学生になってからはめっきり減った。久々に他人が自室に来ているからか、落ち着かなかった。友人が言った。
「マジでポスターだらけじゃん。あ、漫画読んでいい?」
笑いながらOKを出すものの本棚を見ている友人から目が離せなかった。落ち着かなくて無駄に話しかけたりもした。
漫画を読んで雑談をした後、友人は帰宅した。楽しかったと同時に安堵し、家族に「部屋に来ないでくれ」と念を押した後、収納を開いた。
扇風機や参考書、段ボールをどけると大きな布が見える。
それをめくると大量に姿を現すBL漫画
安堵した。これを見られてはいけない。百歩譲って妄想ノートはバレてもネタに出来るからいいが、こっちはちとまずい。見られてはいけないし、知られてもいけない。
オタク趣味ってのは楽だ。勝手に相手が「二次元の女子にブヒブヒ言ってんだろ」と解釈してくれる。でも嘘はついていないし、実際ブヒブヒ言っていたチー牛である。しかし、同時にBLにもハマっていた。不思議な話である。
BL漫画は読んでいて楽しい。本当に面白い。なぜ面白いかと聞かれても答えれないが、読んでいて本当に楽しかった。新刊が出れば購入し、レビューサイトでCPの検索やBL漫画のネクストステージのBLCDも検討していた。
「この漫画面白かったなあ」
人並み程度に人と感想を共有したかった自分が目を付けたのが「ネット」であり、その中でも個人が自由に好きなタイミングで文章を載せることができるブログに目を付けた。そもそもあの時代、ブログぐらいしかなかったというほうが正しい。
最初はブログにBL漫画の感想、またはアニメ、キャラにハマればキャラの話もするし、楽しいことがあれば雑談として記事に残していた。
ある日、ブログ人口がめっきり減った。どうやらみんな「Twitter」というSNSへ乗り移っているらしい。みんながそっちで活動するなら登録するしかないと思い手を出した結果、ブログから離れいった。投稿に対する敷居も上がり、気付けば年1に投稿すればマシなほうへとなった。
ブログから卒業した。
「趣味って何?」
そう聞かれた高校生時代、「ゲーム」「ネット」「漫画」などとクソ適当な回答をよくしていた。
「お前オタクかよ~」と茶化しながら仲良くしてくれる友人に対し、「何なら漫画貸すよ」と好きな作品を勧める、まさに絵に描いたようなオタク
「そういえば、最近BL見てないなあ」
ある日の下校時、そんなことを考えた。最近BLを見ていない。漫画、CD、小説、媒体問わず興味が薄れていった。「なんであんなに好きだったんだろうな、BL」と思ってしまうほど、彼は昔の男になっていたのだ。
友人と遊びに行くのも楽しいし、ゲームも楽しい。進路のことも考えないといけないし、学校にバレないように寄り道をしないといけない。夕飯を買いにコンビニに寄って、ご飯を食べながらゲームをする。それが楽しい。
BLから卒業した。
「お前彼女できた?」
そう聞かれた大学生時代、「さあ」などとクソ適当な回答をよくしていた。
「お前教えろよ~」と肩を揺らしてくる友人に対し、「課題見せてくれたらな」とレポート乞食をする、まさに絵に描いたような大学生
このころには二次元ポスターだらけだった部屋もすっかり一般部屋と化し、漫画もかなり売った。人を呼んでも安心できるような部屋になっていた。
「趣味って何?」
そう彼女に聞かれ、「ゲーム」「ネット」「漫画」などとクソ適当な回答をした。
「あとは?」と聞いてくる彼女に対し、「あとは思い浮かばない」と言おうとして止まった。
最近までほとんど触っていなかった再熱を感じている趣味
正直友人だったら言わないが、付き合っている相手の場合は話が別だ。というより、どっちにしろバレる。絶対バレる。自分で言うのもなんだが、嘘が破滅的に下手。しかも相手が鋭いので、5000%バレる。観念しろ
「引かないでくれ」と念押しした後、「BLが好き」と言うと「へえ」と一言が返ってきた。
「別に引くほどのもんでもないし、それが好きならそれでいいでしょ」と答える相手に対し、「BL作品で5億回は見た『理解がある人物』だな」とクソ最低なことを考えていたのはまた別の話。童貞はこれだからモテないのである。
「趣味って何ですか?」
そう聞かれた社会人、「キャンプとか旅行とか、基本外で活動しますね」などと回答している。
「アウトドアなんですね!」と笑顔で相槌をしてくれる相手に対し、「そうなんです」と肯定する、まさに当たり障りのない普通の会話
仕事を終え、帰宅し、飯や風呂、その他家のことを済ませて椅子に座る。目の前には美少女ではなく、美青年5人が載ったポスターとタペストリー
今の趣味は、キャンプ、旅行、犬の散歩、ドライブ
ブログでBLの話をすること
結局、何一つ卒業はしていなかった。